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広島高等裁判所 昭和43年(ネ)60号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。本件を山口地方裁判所に差戻す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人特別代理人も右と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の主張は、左記に付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一、本件(原審昭和四二年(ワ)第一号)については原審において民訴法七一条による当事者参加の申立(同昭和四二年(ワ)第四一号)がなされ、右両事件が共同審理されていたものであり、右三当事者間の終局判決は一個の判決でなすべきものと解せられるから、参加人との関係を除外し、控訴人と被控訴人間の本訴訟についてのみ一部判決した原判決は違法であつて取消を免れない。

二、被控訴人は学校法人であるが、その寄附行為により唯一の代表権者とされている理事長は、仮処分によりその職務執行が停止され、その職務代行者として林靖が選任されている。ところで、同人はもと被控訴人の理事をしていた者であり、控訴人が請求原因として主張するような、控訴人が理事長を辞任した旨の登記手続は右林が理事会議事録を変造したうえ、これを利用してなしたものであり、同人は当時理事会議長の地位にあつたことなどを考慮すると、同人は、被控訴法人と利益相反するものとして本件については正当な代表者といえないから、私立学校法四九条、民法五七条により被控訴人の特別代理人に選任された江藤英夫が、本件についての正当な代表者と解すべきである。

(被控訴人の答弁)

前記林靖が現在も被控訴法人の理事長職務代行者であることは認める。

理由

本件については、原審において控訴人、被控訴人間の本訴訟(原裁判所昭和四二年(ワ)第一号)が係属中、控訴人主張のように当事者参加の申立(同昭和四二年(ワ)第四一号)がなされたところ、原審が前記本訴訟を分離してその弁論を終結し、特別代理人江藤英夫にはその訴訟について被控訴法人を代表する権限はなく、控訴人が右正当な代表者を補正しなかつたことを理由として前記本訴訟を却下する旨の判決をしたことは本件記録上明らかである。

ところで、以上のように民訴法第七一条による参加申立がなされ、本訴訟と併合審理されている場合には、三当事者間の紛争を矛盾なく解決するため、原被告、参加人の請求のすべてについて一個の判決により裁判すべきであつて一部判決をすることは許されないけれども、右は各請求について訴訟要件が具備し、本案について裁判する場合であつて、両請求のいずれかについて、訴訟要件が欠けるときには、これを理由としてその請求を却下すべきものと解すべきであるから、前記の理由により本訴訟についてのみこれを却下する旨の判決をした原裁判に所論のような違法な点があるものとは解し難い。

次に本件記録によれば控訴人の請求にもとずき原審において、被控訴法人のため私立学校法第四九条、民法五七条による特別代理人として江藤英夫が選任され、控訴人は、右江藤が被控訴法人の正当な代理権を有するものであるとして、原裁判所の代表者を補正すべき旨の命令に応じなかつたことが認められる。

ところでその方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき被控訴法人の登記簿謄本二通および弁論の全趣旨によれば、昭和三八年八月六日大谷正雄が被控訴法人の理事長に就任した(同月一三日右登記)が、その後同年九月一三日には、山口地方裁判所の仮処分決定により同人の職務執行が停止され、同日林靖が理事長の職務代行者に選任されたまま現在に至つていることおよび、被控訴法人の代表権者を理事長に限る旨の理事の代表権の制限がなされている(前同日右登記)ことが認められる。従つて、前記林が被控訴法人の代表権を有するものと認められるのであるが、その代表権は法人の機関としての地位にもとずくものではなく、裁判所の仮処分により創設された地位にもとずくものと解するのが相当であつて、もし職務代行者が公正な職務執行を行うのに不適当であつたり、また後に不適当になつたりしたときは、これが是正は当該職務代行者を選任した仮処分裁判自体の取消変更の方法によるべきであり、法人とその代表機関の間の利益が相反する場合について規定する民法五七条は右職務代行者と法人の利害が相反する場合に準用されないものと解すべきである。しかのみならず、仮に右の場合にも民法五七条が準用されるものであり、かつ、前記林靖が控訴人の主張するように以前被控訴法人の役員であつたこと及び控訴人の理事長辞任登記手続をするについて不正行為をなした事実があつたとしても、そのことから右林が控訴人との間の本件訴訟を追行することにより、被控訴法人自体の利益を犠牲にするおそれが客観的に存在するものとはいえないのであつて、本件が民法五七条にいわゆる法人とその代表機関との利益が相反する場合に該当するものとは解しがたい。

そうすると、本件についてはいずれにしても、前記法条により特別代理人を選任すべき場合でないから、前記江藤には特別代理人として被控訴法人を代表する権限はなく、控訴人において他に正当な被控訴法人の代表者を補正しない以上控訴人の本件訴は不適法として却下すべきものであるから、結局これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、民訴法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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